切削性を向上させるために鉛を添加した銅合金(黄銅)は「快削黄銅」と呼ばれ、身の回りでは水洗金具や電化製品用コネクターなど、多くの産業分野で使用されている材料です。EU RoHS指令では、鉛の含有量は0.1wt%以下であることが要求されていますが、銅合金中の鉛は期限付きで「適用除外」とされていました。その適用除外の有効期限は2021年7月21日ですが、すでに過ぎてしまっています(2021年11月時点)。ここでは、銅合金中の鉛の適用除外に関する現在の状況について解説します。
EU RoHS指令の適用除外用途のリストは附属書 III と IV に掲載されています。これらのリストに、適用除外用途に対する有効期限が設定されている場合は、その有効期限までの使用は認められますが、それ以降は継続(期限の延長)または0.1wt%以下の制限のいずれかとなります。附属書 III は全ての製品カテゴリー (附属書Iに掲載) が対象で、銅合金中の鉛は、附属書 III の6(c) として分類されており、現在は4 wt%までの含有が認められています。
附属書 III 6(c) のうち、特定の製品カテゴリー注1における銅合金中の鉛の適用除外(以下、これを「6(c)」と表記する)の有効期限は2021年7月21日となっていましたが、現在(2021年11月)はどうなっているのでしょうか?
注1:カテゴリー1から7と10および体外診断用医療機器、産業用監視制御装置以外の8と9
6(c) の見直し状況について下記の図に示します。有効期限の18か月前までに事業所等から延長申請が提出され、EU委員会によって受理されると、鉛の適用除外に対する審議が行われます。
6(c) については、期限内に延長申請がありましたので、この審議を進めるにあたり、「Pack 22」という名称のプロジェクトとして、Oko-Institut e.V というドイツの調査会社に委託されました。すでに調査は終了しており、Oko-Institut e.V は最終報告書をEU委員会に提出済です。
その後、この最終報告書をもとにEU委員会で審議され、有効期限後の措置が決定されます。審査が通った場合は、EU委員会が決定した日付まで適用除外の有効期間となります。審査が通らなかった場合でも、決定日から12か月後までは有効期間が継続しますので、この間に代替材(鉛フリー黄銅材など)への切り替えなどを進める必要があります。
なお、現在(2021年11月)はまだEU委員会による決定が出されていませんので、6(c) は継続している状況です。
図 附属書III 6(c) の見直し状況
Pack 22は 6(c) を含む附属書 III の9個の適用除外用途 (6(a)/6(a)-I, 6(b)/6(b)-I, 6(b)-II, 6(c), 7(a), 7(c)-I, 7(c)-II) に対する延長申請に関する評価を行うプロジェクト注2です。
附属書 III の6に含まれるものとしては、銅合金に含まれる鉛以外にも鉄合金やアルミニウム合金に含まれる鉛(快削性向上のため)があり、附属書 III の7に含まれるものには、高融点はんだ(鉛含有量85wt%以上の鉛合金)や特定の誘電セラミックに含まれる鉛などがあります。
EU委員会の決定次第では多くの産業界に影響を及ぼすことになりますので、今後の動向が注目されています。
注2:https://rohs.exemptions.oeko.info/project-overview(外部リンク)
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Pack 22プロジェクトの委託事業者であるÖko-institut e.Vは、2022年1月13日に最終報告書を公開、その後、2022年2月17日にその修正版を公開しています。現在、この最終報告書をもとにEU委員会で審議されている状況です。(2024年5月時点)
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