本文
高分子材料の衝撃特性
安田 健[発表者](繊維・化学グループ)
1.はじめに
プラスチックは、現在の我々が生活する上では欠かせない。そのプラスチックは、金属と比較すると強度や耐衝撃性は格段に劣るが、強度を密度で除した比強度は優れている。その性質として、ガラスやセラミックと比較するとよく伸び、金属より軽いため、プラスチックは、生活用品やおもちゃなどに古くから代替されている。しかし、使用時にひずみ速度の速い変形(落とした、ぶつけたなど)が加わることで、破壊されるため、その特性を把握することは重要である。しかしながら、ひずみ速度の速い試験において、その様子を詳細に観察することを非常に難しい。そこで本報告では、高分子材料の衝撃試験を計装化と高速ビデオカメラで撮影した結果について報告を行う。
2.実験方法
高分子材料には、メルトフローレイト(以下MFR)の違う二種類のポリプロピレン(以下PP)を用いた。PP-1として、 MFR = 21 g/10 minのPP (MA1B、日本ポリプロ製)を、PP-2としてMFR=5g/10minのPP(FY4、日本ポリプロ製)を使用した。一般的に、同じ種類の高分子材料であればMFRの小さいほうが、分子量は大きい。射出成形で矩形試験片(80×10×4mm)を作製し、シャルピー衝撃試験機(DG-UB、東洋精機製作所製)を用いて、衝撃試験を行った。衝撃試験機は、ハンマ部分にセンサを取り付け計装化し(データ収集速度100kHz、ローパスフィルタ2kHz)、衝撃試験の様子を高速ビデオカメラで撮影した。シャルピー衝撃試験では、試験片にノッチを入れたもの(ノッチあり)、入れてないもの(ノッチなし、エッヂワイズ)で測定した。
3.結果
図1にノッチありのシャルピー衝撃試験における荷重-変位曲線を示す。どちらのPPにも変位0.4mm付近とそれ以降の二カ所に極値が存在していることがわかった。この極値と極値の間時間を、高速ビデオカメラで確認すると、試験片とハンマの反発により、ハンマが試験片から離れていた。実際に反発時ハンマと試験片の離れているときの応力は0 になるが、荷重の計測時にローパスフィルタがかけているため、比較的フラットな領域となる。計装化しない衝撃試験では、一つの数値としての衝撃強さしかわからないが、計装化することにより、どちらのPPでも小さいひずみでは同じような挙動であることがわかった。図2にノッチなしのシャルピー衝撃試験における応力-ひずみ曲線を示した。どちらのPPも降伏するまでの挙動は同じであるが、最終的に破断するまでのひずみが違うことがわかった。
図1 ノッチありシャルピー衝撃試験の荷重―変位曲線
図2 ノッチなしシャルピー衝撃試験の応力―ひずみ曲線
4.まとめ
肉眼では観察することのできない衝撃試験を、センサによる計装化、高速ビデオカメラによる撮影を行うことで、破壊の様子を詳細に検討することができる。