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都産技研での燃料電池開発に向けた取り組み
峯 英一(繊維・化学グループ)、菊池 有加(材料技術グループ)、伊東 洋一(城東支所)、上野 博志(高度分析開発セクター)、武藤 保(有限会社パラマウントエナジー)
1.はじめに
燃料電池は水素などを燃料として供給し、電気に変換する発電するシステムである。化石燃料を燃焼する火力発電とは違い、燃料電池では燃料を燃焼させず直接化学エネルギーを取り出すため発電効率が高いという利点がある。燃料電池は大きく分けて4種類に分けられるが、表1に固体高分子形(PEFC)と固体酸化物形(SOFC)の燃料電池の特徴を示す。両者は使用する電解質の種類、作動温度および発電効率などが異なっている。作動温度が低い固体高分子形燃料電池(PEFC)は起動・停止が容易であるため、携帯用電源や燃料電池自動車などの移動体用電源として実用化が期待されている。発電効率の良い固体酸化物型燃料電池(SOFC)などは次世代の定置用燃料電池として実証研究が行われている。
燃料電池は電力需要地に設置する分散型電源として利用でき、日本では既に家庭用燃料電池が市販されている。このような分散型電源は、大規模な発電所から電線網によって遠方の電力需要地へ電力供給する現在の商用発電に比べ、送電ロスが少ない。また、発電に加え低温排熱を温水として利用するコージェネレーションシステムでは、エネルギーの利用効率はさらに高まる。将来的には商用発電を冗長化する分散電源として期待が高まっている。
表1 各燃料電池の特徴
2.燃料電池の技術課題
PEFCの触媒を例にコストについて解説する。図1にPEFC発電部の基本単位である単セルの概略を示す。一般にPEFCの内部は燃料ガスや空気を均一に供給するリブ(溝)を備えるセパレーター、ガス拡散性の高い炭素繊維からなる多孔質支持層、酸化・還元反応がおきる触媒層、プロトン伝導性の固体高分子膜などを挟み込んだ構造になっている。PEFCの発電反応は水素を燃料とした場合次式のように表わされる。
- 燃料極(アノード):H2 → 2H++ 2e- …(式1)
- 空気極(カソード):1/2O2+ 2H++ 2e- → H2O …(式2)
- 全反応:H2 + 1/2O2 → H2O …(式3)
起動・停止が容易な低温側で十分な活性を示す触媒は、高価な白金である。また、上記の反応で理論的に取り出せる電圧は1V程度であり、実用的な電圧を取り出すには複数のセルを配列するスタック構造となり、触媒使用量も増加する。このため燃料電池製品普及のための大きな課題はコストダウンとなっている。現在も白金使用量低減や非白金系代替触媒の探索に関する研究が精力的に行われている。
図1 PEFCの構造
3.カソード構造の改良
白金触媒の使用量を低減する場合、一つの指針となるのが白金量当たりの出力向上である。高性能の白金触媒の利用や、白金触媒を無駄なく利用できる電極構造を設計して出力を向上することで、使用する白金量を低減できる。当グループでは、触媒層中にミクロンオーダーの大粒径のシリカ粒子を導入し、触媒層の構造を改良する手法で出力向上を試みた。
触媒の白金担持カーボンを塗布した通常カソードと、白金担持カーボンとシリカ粒子を混合して塗布した改良カソードを作製した。それぞれのカソード触媒層の構造を観察するため、触媒層のエネルギー分散型X線(EDS)分析を行った。白金のマッピング結果では、両カソードともに触媒相中の白金は分析面全体から検出された。一方、ケイ素のマッピング結果では、は図2に示すように、白色で示される部分からケイ素が検出された。これは導入したシリカ粒子由来のもので、ミクロンオーダーのシリカ粒子は触媒層中に分散して存在していることを示唆している。白金担持カーボン触媒の粒子径は数十nm程度でシリカ粒子より小さく、両者はスラリー状態では沈降速度が大きく異なるが、混合スラリーは通常の塗布工程でシリカを分散して塗布可能であることがわかった。
それぞれのカソードを用いて作製した燃料電池単セルの出力を図3に示す。カソードに含まれる白金量はいずれも0.5 mg/cm2で一定とした。改良構造のカソードは通常カソードを上回る出力電圧を示し、同じ白金量でも出力が向上することがわかった。シリカは不活性な物質で式2の反応に寄与しない。したがって、シリカ粒子導入によるカソード触媒層の構造的な変化が出力向上の要因といえる。従来のnmサイズの白金担持カーボンが密に詰まった構造に比べ、大粒径のシリカ粒子を導入して空隙を造ることにより反応ガスの拡散が向上したものと考えられる。
図2 カソード触媒層中のケイ素分布 白い部分がケイ素検出部
図3 燃料電池単セルの出力
4.まとめ
シリカ粒子は資源量も豊富で貴金属よりも非常に安価な物質である。シリカ粒子の導入も混合・塗布で簡便に行えるため、本手法は製造コストも低く量産性も高い手法といえる。また、触媒反応に寄与する手法ではないため、他の白金代替触媒との組み合わせによる出力向上が期待できる。