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CG技術を用いた伝統的工芸品の新規製品開発
印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新
原 めぐみ[発表者](繊維・化学グループ)、藤田 茂(元都産技研)、池田 善光、小林 研吾(繊維・化学グループ)、吉水 壯吉(吉水工房)
1.はじめに
多摩織とは、八王子市を中心に伝統的に織られてきた絹織物の総称で、経済産業大臣指定の伝統的工芸品である。現在、多摩織は伝統技法の次代への継承と、八王子の地場産業の活性化、多摩織ブランドの新たな市場の開拓が求められている。そこで新たな洋装雑貨としての帽子の開発に着目し、時代の需要を取り入れた新規性の高いデザインと新しい技術を用いた製品開発を行った。
2.実験方法
- 多摩織技法の一つである翠紗(すいしゃ)技法を用いて帽子用生地の開発を行った。帽子用の生地として使用することを考慮し、ねん糸の際に糸を1本増やす等し、ねん糸・製織条件の検討を行い、製織した。また、生地の表情に変化を与えるため、よこ糸につむぎ糸を部分的に織り込んだ (図1)。
- 市場動向を製品企画に取り込むため市場調査・分析を行った。2011春/夏トレンドカラー・素材・柄・形状等について、トレンド情報機関やマーケットから情報の抽出、街頭調査、聞き取り調査を行った。
- 織物用CADソフト(4DBOX;トヨシマビジネスシステムズ社製)を用いてPC上で糸・生地の作成を行い、生地の表情を実物に近い物になるようデザインシミュレーションを行った。また、CG技術を用いて帽子の形状へ貼り込み、最終的な製品イメージ、デザインの検討を行った (図2) 。
図1 製織した翠紗の生地 | 図2 CGを用いたシミュレーション |
3.結果・考察
- 製織した生地を検討した結果、製織性は良好で、帽子としての消費性能も概ね満たしていた。伝統的工芸品多摩織技法の枠の中で織物を帽子用に改良することができた。
- 調査・分析結果を基に、ターゲット(50代女性)、イメージ(エレガント)、カラー(12色)等の選定を行い、製品企画を立案した。
- デザインシミュレーション技法を活用することで、翠紗生地を用いた帽子のよりリアルなシミュレーション画像の作成を行うことができ、円滑なデザイン選定が可能となった。これを基に実物の製品を7点製作することができた(図3)。
図3 開発品(7点中1点)
4.まとめ
本研究では、伝統的工芸品多摩織技法の中で、新たに洋装雑貨向けに織物設計をし、市場動向を取り入れた製品企画を立案し、最新のCG技術を取り入れたデザイン作成とデザイン検討を行った。その結果、今までの和装製品を軸としていた多摩織の製品とは異なった、新たな表情を持った多摩織の製品を製作することができた。今回開発した翠紗技法の織物設計やCGによるデザインシュミレーション手法、画像合成手法は今後、他の伝統的工芸品の製品開発支援にも活用可能である。