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脂肪族ポリエステルとの複合化による未利用バナナ繊維の有効利用
梶山 哲人[発表者]、清水 研一(材料技術グループ)、安田 健(繊維・化学グループ)
1.はじめに
生分解性ポリエステルはプラスチック廃棄物問題を解決する材料の一つであるが、機械的強度に欠けている。我々は、世界中で年間10億トン以上も廃棄されるバナナの葉を原料とし、近年、未利用天然繊維として資源化が検討されているバナナ繊維(BF)に着目し、BFとポリブチレンサクシネート(PBS)もしくはポリカプロラクトン(PCL)の複合体にセルロースエステル類(CEs)を非反応型相容化剤として添加する検討を行った。
2.実験方法
BFはバナナ葉部廃棄物をアルカリ処理し、長さ5mmにカットして使用した。樹脂として、ポリブチレンサクシネート(PBS, ビオノーレ#1020)およびポリカプロラクトン(PCL, PLACCEL H7)を用いた。相容化剤として、セルロースアセテート(CA)、セルロースプロピオネート(CP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)を使用した。キャスト法でフィルム化したPBS/CEsおよびPCL/CEsを示差走査熱量測定(DSC)し、融点(Tm)を求めた。複合体をバッチ式混練機で作製した。その後、空圧式射出成形機を用いてダンベル試験片を作製し、引張試験(試験速度1mm/min、チャック間距離65mm)を行った。
3.結果・考察
生分解性ポリエステルとCEsの相容性を検討するために、側鎖長の異なる三種類のCEs(CPのエステル側鎖炭素数は3、CABは2と4、CAは2)をPBSもしくはPCLに添加したキャストフィルムの熱分析を行った。樹脂とCEsの相容性が向上するほど樹脂粒子の結晶性が低下し、Tmが降下すると言われている1)。本検討ではCEsを添加することで、PBSのTmが大幅に降下し、PCLのTmは若干降下したので、本検討条件下ではPBSの方がPCLよりもCEsとの相容性の高いことが考えられる。また、エステル側鎖長の長いCEsほど、PBSと相容性が良好であることも示唆された。
次に、融点降下の大きかったPBSを用いて行ったBF/PBS/CEs複合体の引張試験の結果を図1に示す。CEsを添加したBF/PBSは、最大引張応力はほとんど変化しないが破断ひずみが増大した。最大引張応力はほとんど変化しないのはCEsの添加量が1%とわずかであるためであり、破断ひずみが増大したのは、CEs無添加時よりもBFとPBSの界面の密着性が向上し、BFの引き抜けが抑制され、粘り強くなったためと考えられる。つまり、CEsはBFとPBSの相容化剤として有効であることが分かった。CEsのセルロース部分とBF、エステル部分とPBSが相容すると考えられ、CEsがBFとPBSを橋渡しする働きをして界面密着性の向上に寄与したと考えられる。
図1 PBS複合体の引張試験
4.まとめ
セルロースプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートをポリブチレンサクシネート/バナナ繊維複合体に添加することで、破断ひずみの増大することが明らかとなった。今後は他の相容化剤についても検討し、複合体の物性向上を図る。
(1)Y. Nishio, K. Matsuda, Y. Miyashita, N. Kimura, H. Suzuki, Cellulose, 4, 131-145 (1997).