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編針表面へのDLC膜の適用
川口 雅弘[発表者](高度分析開発セクター) 、堀江 暁(墨田支所)
1.はじめに
DLC(Diamond-Like Carbon)膜はすでに種々の製品に適用されており、日本の受託加工市場規模は2010年時点で約80億円(2002年比で4倍以上)となっている。中でもプラズマイオン注入成膜法(Plasma Based Ion Implantation and Deposition; PBII&D)は、イオン注入と成膜の同時処理を可能とする、今後の発展が期待される成膜技術である。本研究では、編針の表面に対してPBII&D法によりDLCを成膜し、編針の性能評価を行った。
2.実験方法
PBII&D装置の概略を図1に示す。PBII&D法の特徴として、(1)低温処理(50℃まで)が可能である、(2)イオン注入効果が得られる、(3)複雑形状物の均一処理が可能である、などがあげられる。成膜条件をパラメータとして編針の表面にDLCを成膜し、金属糸、あるいは普通糸を用いた編成試験、試験後の編針の表面観察などを行った。また、編針処理時の成膜条件の最適化について検討した。
3.結果・考察
1万コースの金属糸編成試験を行い、編針表面を観察した結果、未処理編針と比較してDLCを成膜した編針の表面は、摩耗痕などがほとんどないことを確認した。また、普通糸編成試験を行った結果、未処理編針は腐食した一方、DLCを成膜した編針は腐食がほとんど生じないことを確認した。PBII&D法の場合、DLCのイオン注入成膜となるため、編針基材とDLC膜の界面にはイオン注入層(Mixing layer)が存在する(図2)。イオン注入層の存在は、DLC膜の密着性の劇的な向上を促すことから、編成試験時の編針の変形にDLC膜が追従し、十分な表面保護効果を確保できたと考えられる。一方、成膜条件を検討した結果、特にPBII&D処理時の高パルス電圧、成膜圧力が、DLC膜の表面保護性を左右する支配的な影響因子であることを確認した。
4.まとめ
編針表面にPBII&D法でDLCを成膜することで、編針の耐摩耗性、防食性が著しく向上することを確認した。
図1 PBII&D装置の概略 | 図2 イオン注入成膜の概略 |