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炭素硫黄分析装置による無機物の測定
樋口 智寛[発表者](材料技術グループ)
1.はじめに
近年、安全性やトレーサビリティへの関心の高まりから、異物や付着物、開発段階の材料等、未知試料に対する低濃度な含有元素の分析需要が増加している。本研究では、鉄鋼の規格判定において、炭素および硫黄量の分析に用いられている炭素硫黄分析装置(CS装置)により、これら未知試料の分析を行うための基礎的な条件を取得することを目的とした。今回、無機異物のモデルとしてセメントを取り上げ、含有する硫黄の分析を試みた。
2.実験方法
実験には高周波誘導加熱CS装置(LECO製、CS230SP)を用いた。試料には化学分析用セメント標準試料211R ポルトランドセメント(セメント協会製、SO3 2.131%(硫黄換算0.853 %))を選択した。検量線作成には、鉄鋼認証標準物質JSS243-5硫黄定量専用鋼(日本鉄鋼連盟製)を用いた。助燃剤は、W(ALPHA製、AR027)、Sn(ALPHA製、AR076)、Fe(LECO製、501-077)の混合物を用いた。測定は、セメント試料を約0.3g磁器るつぼ(LECO製、528-018HP)に採取し、所定量の助燃剤を投入して行った。
3.結果・考察
CS装置による分析において、試料に含有する炭素および硫黄を再現良く抽出するには、助燃剤の種類や量が大きく影響する。そこで、セメントにおける最適な分析条件を得るために、硫黄分析において助燃剤として一般的に用いられるW、SnおよびFeの種々な混合物を用いて分析を行い、結果を表1に示した。なお、検量線作成は鉄鋼標準物質を使用した。
鉄鋼の分析において一般的な助燃剤W:Sn=7:3(質量比)混合物 1gを用いた場合、セメントの硫黄認証値0.853%に対して著しく低値を示し、再現性も得られなかった。また測定後のるつぼ内を観察したところ、未燃焼のセメントが確認された。これらから、測定時にセメントおよび助燃剤の流動が十分に行われず、セメントと助燃剤との接触部からのみ硫黄が抽出されたことが、分析結果に影響したといえる。
そこで、るつぼ内の流動性を改善させるため、他の助燃剤成分と比較して融点が低いSnを1g追加し、助燃剤量を増加させて分析を行った。その結果、再現性は改善されているものの、測定後のるつぼ内には空孔および未燃焼のセメントが残留していた。低融点のSnが酸化物として一気に放出されて空孔を形成し、その後の流動性が失われ、未燃焼のセメントが残留したと見られる。
るつぼ内の流動性を維持するためには、燃焼の間、るつぼ内に留まれる助燃剤成分が必要と推定されたため、Feを1g追加したところ、再現性が大きく改善された。また、るつぼ内には未燃焼のセメントや空孔は確認されなかった。一方、測定値は認証値よりも高値を示した。これは、セメントの硫黄は酸化物であり、検量線を作成した鉄鋼標準物質との間で化合物の形態が異なることに起因していると推定した。そこで、CaSO4等により検量線を作成した結果、良好な分析値を得られることが明らかとなっている。発表では、これらの結果についても報告する。
表1 セメント1)中の硫黄の分析における助燃剤の影響
4.まとめ
CS装置による鉄鋼以外の無機物の分析には、るつぼ内の試料の流動性を維持可能な助燃剤を選定することが必要であることがわかった。