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金属の発色現象の光学的モデリング
印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新
海老澤 瑞枝[発表者]、岩永 敏秀(光音技術グループ) 、
橋本 智(株式会社表面化工研究所)、平野 輝美(平野技術士事務所)、前田 秀一(東海大)、水谷 康弘(徳島大)
1.はじめに
ナノメートルオーダの金属微粒子はバルク金属とは異なる発色を示すことが知られている。このような発色現象は、古くは美術品などに利用されていたが、近年では工業製品の色材や光学デバイスへの応用が進められている。金属微粒子の発色は、電場の局在と散乱の複雑な相互作用に起因し、これらの物理現象を逐一厳密に解析することは非常に困難である。本研究では、開発の段階で実用上有用と思われる発色現象を簡便に表す誘電率関数について検討する。
2.金属の形態と誘電率モデル
銀について、基本となるバルク状態と発色現象の生じるナノ微粒子分散体、化成処理によって微粒子構造が付与された表面の3種類の形態の誘電率関数を検討した。まず、バルク状態の誘電率モデルには、Drude Lorentzモデルを用いた。このモデルでは、自由電子の分極をマス・ダンパ、束縛電子の分極をバネ・マス・ダンパの機械振動系で表す。図1にバルク銀の分光反射率の実測値と誘電率モデルから求めた計算値を示す。実測値と計算値はよく一致しており、本モデルの有効性を確認した。 銀の微粒子分散体の誘電率関数は、媒質の体積に対する金属微粒子の充填率を変数とする有効媒質近似を用いた。一方、化成処理された微粒子構造面の発色現象は有効媒質近似では表現できないことが実験結果から示されたため、新たに誘電率関数を検討した。本研究では、銀微粒子構造を銀とは異なる束縛電子をもつ金属原子と仮定し、機械振動系モデルを適用した。 | 図1 バルク銀の反射率の実験値と モデルから求めた計算値 |
3.色度座標におけるモデルと実験値の比較
銀微粒子構造面を図2(a)に示す。化成処理時間によって異なる発色が見られる。それぞれの発色面の分光反射率を測定し、D65光源での物体色を求め、図2(b)の色度座標上に示す。同様に、誘電率関数から求めた分散体と微粒子構造面の物体色を色度座標に示す。分散体では、高い充填率では青色を反射、低い充填率では黄色を透過し、計算値の示す色度座標と一致する。また、微粒子構造面では、処理時間に対する色の変化が実験値と計算値でよく一致しており、本モデルの有効性を確認した。 | 図2 銀の分散体と微粒子構造面の発色現象 |
4.まとめ
バルクとは異なる発色が見られる微粒子分散体および微粒子構造面の誘電率関数を検討し、微粒子構造面の発色は機械振動子モデルによって表現可能なことを見出した。誘電率関数の変数と表面の特性との対応付けが今後の課題である。