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残響室内音圧分布の実測と数値シミュレーションの比較
渡辺 茂幸[発表者]、神田 浩一、服部 遊、西沢 啓子(光音技術グループ)、横山 幸雄(システムデザインセクター)
1.はじめに
数値シミュレーション技術は、設計段階における音場の予測、問題点の把握および性能評価を行ううえで有用なツールの一つとして利用され、労力・時間・コストの削減などが期待できる。しかし、シミュレーション対象のモデル化や設定条件等が適切でない場合には実態と異なる結果を導出してしまう。そのため、数値シミュレーション結果の有用性の検討を目的として、基本的な音響現象や音響試験室をモデルとした数値シミュレーションを行い、理論解および実測結果との対応について検討を行った。本報では一例として、都産技研旧西が丘本部にある不整形七面体残響室(以下、残響室)を対象とした比較検討について報告する。
2.実験概要
残響室は、室内の複数点での音圧レベル(音圧レベル分布)の標準偏差が小さいことが一つの重要な条件である。実測により室内の音圧レベル分布を把握するには数多くの測定が必要となるが、数値シミュレーションを行えば短時間で複数点の音圧レベルを予測することができる。そこで、実測とそれに対応する数値シミュレーションを行い、両結果を比較した。
実測では、音源Sよりホワイトノイズを放射し、図1に示す受音面内(4m×4m、高さ1.5m)の計441点(0.2m間隔、P1からP441)で音圧レベルを測定した。また、数値シミュレーションには、市販の音響解析ソフトウェアを使用し、実測と同様に設定して音圧レベルを算出した。なお今回は、1/3オクターブバンド中心周波数125Hzを対象とした。
図1 実験の概要
3.結果・考察
実測と数値シミュレーションにより得られた音圧レベル分布性状の一部を図2に示す。音圧レベル分布性状は近似しており、数値シミュレーション結果は概ね実測値の特徴を捉えていることが確認できた(相関係数:0.74)。また、実測による標準偏差は0.9dB、数値シミュレーションによる標準偏差は1.2dBであった。以上より、時間や労力の要する実測に比べ、数値シミュレーションは、その特徴を概ね捉えるための有効な手段となると考える。
図2 実測と数値シミュレーションの結果
4.まとめ
実測と数値シミュレーションによる残響室内の音圧レベル分布性状について比較し、その有用性が確認できた。今後は、より実用的に有用な数値シミュレーション結果を得るために、対象のモデル化および物性値等の設定条件について検討を進め、適応範囲の拡大を図りたい。