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木材から放散されるギ酸・酢酸の定量法の開発
瓦田 研介[発表者]、浜野 智子(環境技術グループ) 、栗田 惠子( 元 環境技術グループ)、
大橋 亜沙美、近江 正陽(東京農工大学大学院)
1.はじめに
収蔵庫内の空気中に存在する化学物質は貴重な文化財に大きな影響を及ぼすことが知られており、アンモニア・ヒノキチオール・カルボニル化合物(ホルムアルデヒド等)・有機酸などについて報告がある。空気中に存在するこれらの化学物質の濃度を低減して文化財を保護するためには、化学物質の放散量を根拠にした建材使用量の制御を行う方法がある。著者らはこれまで文化財収蔵庫に多用されてきた国産針葉樹および広葉樹が放散するカルボニル化合物の放散速度を小形チャンバー法によって定量し、収蔵庫に使用する木材を選択する際の指標を提案した。本研究では、木材が放散するギ酸および酢酸といった有機酸の放散量を定量する方法として、ガラスデシケーターを用いた簡便法と小形チャンバーを用いた動的手法の二つを検討したので報告する。
2.実験方法
JIS A 1460で規定されたガラスデシケーター法によるホルムアルデヒド放散量の測定法を改良してギ酸・酢酸を定量した。内容積約10Lのガラスデシケーター内に超純水100mLを木材試料(試料表面積1000から1500cm2)とともに入れ、28℃の恒温室に24時間静置した。その後、超純水中に含まれるギ酸および酢酸をイオンクロマトグラフによって定量した。
小形チャンバー法による測定では分析精度を確認するため、ギ酸および酢酸の低濃度標準ガス発生装置を試作した。装置で発生させた標準ガスを23℃、50%RHに調整後ステンレス製およびガラス製チャンバー内に導入し、チャンバー前後の濃度変化から回収率を求めて測定精度を検討した。28℃に制御されたインキュベーター内に設置したチャンバーから捕集した空気に含まれるギ酸および酢酸についてイオンクロマトグラフを用いて定量し放散速度を求めた。
3.結果・考察
測定温度が木材の酢酸放散量に及ぼす影響を図1に示す。すべての試料(スギ心材、スギ辺材、スプルース、ブナ)で、測定温度が高くなると酢酸の放散量も増加した。同様に、ギ酸の放散量も測定温度に依存することが示された。一方、小形チャンバー法による測定では、200から400ppbの有機酸標準ガスをガラス製チャンバー内に導入した際の濃度変化を調べた結果、導入後約1時間でチャンバー出口の濃度は一定となり、入口濃度とほぼ等しくなることから、ガラス製チャンバーでは、木材などの建材のギ酸および酢酸の放散速度を高い精度で測定できることが示唆された。
図1 測定温度が木材の酢酸放散量に及ぼす影響(デシケーター法)
4.まとめ
建築材料のギ酸および酢酸の放散量を簡便かつ安価に測定できる手法を開発した。さらに、小形チャンバーを用いた動的測定法を開発し室内空気中のギ酸および酢酸の気中濃度のシミュレーションが可能となった。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)20580186により実施した。