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カーボンマイナス達成のためのトリチウム精密監視技術の開発

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

 

斎藤 正明[発表者]、柚木 俊二、永川 栄泰(バイオ応用技術グループ)

1.はじめに 

  カーボンマイナス政策の抜本的解決として、原子力の活用が求められている。原発の周辺技術として、環境放射能・モニタリング産業を育成するにあたり、トリチウム多段電解濃縮装置開発に取り組んだ。都産技研開発による従来の単段型トリチウム濃縮器は1.4億円を超える規模で利用されてきたが、対応可能な特殊型計測器が国産一機種に限られていた。そこで、世界数千台規模使用されている普及型に対応できる新機種の開発に取り組んだ。

2.理論・実験

  水の電解によって軽水素水が優先的に分解する現象を利用し、電解濃縮によって環境濃度レベルのトリチウムが計測可能となる。この際に水素イオンが水和水を随伴して陰極に移動することが知られていた。斎藤は随伴水のトリチウム濃縮率が一定値で、陽極部では濃縮が起きないことを発見した。電解ユニットをn段化すればn乗倍の濃縮水が最終段で得られると仮説を立て実証実験を行った。試作した8段型多段電解濃縮システムを写真1に示す。写真左側の既知濃度のトリチウム水は写真右側の多段電解ユニットにチューブで接続されている。電解終了後、各段から濃縮水を採取し、各々のトリチウム濃縮倍率を決定した。トリチウム計測は液体シンチレーションカウンタ、Aloka社LB5型を用いた。

3.結果・考察

  1段のトリチウム濃縮率が一定値ならば、多段化による電解濃縮が可能なはず、という仮説のもとで行った電解濃縮率の変化を図1に示す。横軸に電解段数、対数縦軸にトリチウム濃縮率をプロットしたところ直線関係が得られた。トリチウム濃縮率は電解段数の累乗で増加し、8段目で4.7倍のトリチウム濃縮が実測できた。傾き0.202(対数値)は1段の濃縮率1.22倍を意味する。以上のように、多段電解の効果を実証できた。
  従来機は閉鎖系バッチ方式で、一例として一定量1000mLの試料水を50mLに減容することで一定濃縮率を達成していた。多段型は初期水量問わず一定濃縮率の水が一滴一滴貯留する方式であり、普及型計測器の必要量10mLに対応できる。開放系連続システムで試料水損失を抑制するための冷却システムが不要、初期水量の計量が不要などシンプルで簡易な利点があり、海上設置など無人連続観測システムに発展可能な技術でもある。

多段電解濃縮システムの写真
写真1 多段電解濃縮システム

電解段数Nと濃縮率Zの関係の図
図1 電解段数Nと濃縮率Zの関係

文献  斎藤他:Electrochemistry, 78,597-600(2010), ivid.Electrochemistry,77,370-372(2009), 高橋他:RADIOISOTOPES,58(7),469-475(2009), 斎藤他:特開2010-006637, PCT JP2009 061393

 


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