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芳香族化合物の拡散定数計測器の開発

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

平野 康之[発表者](機械技術グループ・地域結集事業推進室 兼務)、原本 欽朗(電子機械グループ・地域結集事業推進室 兼務)、吉田 裕道(地域結集事業推進室)

1.はじめに

  有機溶剤を使用する工場等から発生する揮発性有機化合物(VOC)を簡易的に定性分析する技術が求められている。簡易VOC計測器の1つとして、紫外線(UV)照射によるイオン化VOCのイオン電流から、濃度を出力する光イオン化検出器(photo ionization detector: PID)がある。しかし、イオン電流は濃度とVOCのイオン化ポテンシャルに依存するため、従来のPIDは定量計測である。本研究では、非励起空間をイオンが飛行する事によって拡散定数を得るPIDを開発し、物質推定が可能なPIDを提案する。

2.実験方法

  ガス流路の流れ方向に平行平板のイオン検出電極を固定し、電極間方向とガス流れに直交する位置からKrランプによって電極間の一部分の空間をイオン化する(図1)。代表的なVOCである芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン: BTX)を用い、パーミエータ(ガステック、PD-1B-2)による濃度調整後に電極を内蔵した流路に単一成分のガスを導入する。BTXはカチオンを形成し、酸素分子によってアニオンが形成される。印加電圧によって、どちらか一方のイオンが非励起空間を飛行し、電極間の抵抗値は非励起空間に依存する。イオンの移動度はアインシュタインの関係式から拡散定数と比例であり、また抵抗値に対しては反比例である。従って、正負イオンの抵抗値から拡散定数が得られる。

  1. 抵抗値と印加電圧の関係: 濃度が一定のベンゼン4~100ppmを導入し、-1~-1000Vの電圧を印加し、イオン化したベンゼンの抵抗値を調査した。
  2. イオン量と正負イオンの抵抗比の関係: 10~100ppmの単一成分のBTXをそれぞれ導入し、±100V印加時の正負のイオン電流から得られる抵抗比を求め、拡散定数との関係を調査した。

部分励起とイオンの飛行の図
  図1 部分励起とイオンの飛行

3.結果・考察

  1. イオン化ベンゼンの抵抗値Rは印加電圧に対して独立であることが示され、濃度に依存した一定の値をとる(図2)。
  2. 抵抗比はイオン量の影響を受けず、物質ごとにほぼ一定である事が示された(図3)。拡散定数Dは、独立な比例定数C1、C2とすると、D+≈C1D- (R- / R+) + C2D-と表され、それぞれの拡散定数から、C1=0.389、C2=-0.270が得られた。この値を用い、他の芳香族炭化水素の拡散定数の計測ができる。
濃度と抵抗値の関係の図
図2 濃度と抵抗値の関係
抵抗比とイオン電流の関係の図
 図3 抵抗比とイオン電流の関係

4.まとめ

  非励起空間を飛行するイオンの抵抗値から拡散定数を出力する計測器を開発した。BTXを用いた実験において、酸素分子イオンとの抵抗比は、拡散定数に依存した物質固有の値を示した。
  今後、芳香族炭化水素以外のVOCについて調査を行い、PIDによる物質推定を検討する。

  なお、本研究はJST、東京都地域結集型研究開発プログラムの成果である。

 


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