人はモノに触れた時、素材の物理特性に応じて素材を知覚し、価値観に応じて“好き/嫌い”といった感性・嗜好を感じる(図1)、と考えられています1)。「触り心地を評価したい」と考えた際に、「好触感にしたい」と思われるかもしれませんが、“好き/嫌い”の感じ方は人の価値観によって影響を受けるため、現状の方法では定量評価することは困難です。今回ご紹介する触覚評価試験機では、価値判断に中立である「素材の知覚感:摩擦感(乾湿感)、硬軟感、温冷感、マクロ粗さ、ミクロ粗さ」に着目し、触感を評価する技術になっております。
図1 触認知理論に基づく「触り心地」の考え方
触覚評価試験機は、「人の指腹を模倣した触覚接触子」、「人の“撫でる・擦る”動きを模倣した正弦波駆動機構」を有した摩擦試験装置となります。サンプルをテーブル上に設置し、接触子と摩擦することで得られる摩擦波形から摩擦パラメータを取得することができるため、固体のサンプル以外にも液体や粉体のサンプルの評価も可能です(図2、図3)。摩擦波形から算出した摩擦パラメータは、研究成果2)~5)により乾湿感、摩擦感、硬軟感、粗さ感と強い相関を示すことが確認されており、様々なサンプルの知覚感(触り心地)の評価が期待されています(図4)。
図4 触感と摩擦パラメータの相関関係;
(a)湿潤感、(b)すべり感、(c)なめらか感、(d)柔軟感 [出展:文献4)]
「開発品の設計パラメータとして触り心地を導入したい」、「他社品との触り心地を比較したい」といったご相談を多くいただいております。評価したい「触り心地」によって着眼点は様々ですが、本試験装置のパラメータを用いることで、乾湿感、摩擦感、硬軟感、粗さ感の4つの次元から各サンプルの触り心地を推定できます。図5は本革の触り心地を目標にした合皮サンプルの開発評価例となります。右図のレーダーチャートは4つの知覚感を規定する摩擦パラメータから構成され、各サンプルの触り心地の程度を定量的に評価することができます。シボ加工(表面テクスチャ)は触り心地を大きく変化させることで知られていますが、表面加工によって目標に近づいたのか一目に判断することができるようになります。
図5 合皮サンプルの触り心地評価例
今回ご紹介した評価手法は人の知覚感に基づく触り心地評価を実施する技術となります。多種多様な触感項目について、オーダーメード的な評価支援も実施いたしますので、触り心地評価にご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。
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プロセス技術グループ
副主任研究員
齋藤 庸賀(さいとう やすよし)
1) 岡本正吾:粗さ・摩擦・硬軟・温冷の触知覚機序-触感/テクスチャはこうして感じられている-(Web文献):http://www.mech.nagoya-u.ac.jp/asi/ja/member/shogo_okamoto/(外部リンク)
2) Yuuki Aita et al.: AIP ADVANCES, No. 7 045005(2005).
3) 齋藤ら, 指モデル接触子を用いた動的摩擦特性に及ぼす正弦波駆動の影響, トライボロジー会議 2023春東京予稿集, (2023)B11.
4) 齋藤ら, ニット生地の触感に及ぼす繊維素材の離京, 2023年繊維学会秋季研究発表会予稿集, (2023)2J06.
5) 齋藤ら,正弦波駆動機構を有する摩擦試験装置による触り心地評価, 材料試験技術, 7(2023)107.
※記事中の情報は掲載当時のものとなります。