都産技研では、騒音レベル測定や吸音率測定などの定型的な音響性能の依頼試験の他、対象となる製品の特性に合わせたオーダーメード型技術支援や共同研究をご提案しています。
本シリーズでは、そのような特色ある測定事例の一部をご紹介いたします。第1回の本記事は、個室型執務ブースの遮音性能の評価について解説します。
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近年、WEB会議やリモートワークの普及に伴って、個室の執務ブースの導入が拡大しています。執務ブースは、音声の情報漏洩防止や室外からの騒音低減のため、高い遮音性能が要求されます。そのため、遮音材や吸音材を組み合わせることで遮音性能の向上を図ります。通常、遮音材や吸音材の個々の性能は音響透過損失や吸音率によって測定します。ただし、執務ブースの遮音性能は、使用した吸音材や遮音材の性能だけでは予測できません。執務ブースとしての性能は、組み立て方や、開口部の形状、材料の組み合わせによって大きく変化するためです(図1)。
そこで、執務ブースとして組み立てた状態での遮音性能評価試験が求められます。都産技研では、実験室(半無響室)内に執務ブースを設置することで、実際の製品使用時に近い環境での遮音性能評価を実施しています(図2)。
図1 執務ブースの遮音性能は個々の材料の特性だけでは分からない
図2 半無響室での執務ブースの遮音性能測定の様子
半無響室でのブースの遮音性能を評価する指標の一つに「挿入損失」があります。これは、ブース設置前後の音圧の差異を測定する方法です。挿入損失を測定することで、どの周波数で、どの程度音圧が低減できるかを把握することができます。図3にブースの挿入損失の一例を示します。この挿入損失の結果から、ブースAよりもブースBの方が高い遮音性能を有することが分かります。
図3 挿入損失によるブースの遮音性能の比較
執務ブースにおいて発生しうる音の問題として、外部への音声漏れによる情報漏洩が挙げられます。情報漏洩の程度を把握する上で、先述した挿入損失は有効な指標とはなりますが、その結果だけでは、どの程度音声漏れが発生しているかは分かりません。
そこで都産技研では、これまでに実施した基盤研究で、執務ブースの遮音性能と単語了解度(音声情報漏洩の評価に用いられる指標*1)との対応について、音声聴取実験を行うことで検討しました。本研究成果を活用することで、執務ブースの遮音性能から音声情報漏洩の程度を推定することができます。
例えば図3のような挿入損失の結果から、図4のように単語了解度の推定値を得ることで、ブースAは単語了解度90%(音声に集中しなくても内容がわかる程度*1)、ブースBは単語了解度75%(音声は聞こえるが音声に集中しなければ内容はほぼわからない程度*1)といった情報漏洩の程度の目安を示すことができます。これにより、執務ブースの物理的な音響特性から音声情報漏洩といった人の感覚量を推定するのに役立てることができます。
*1 日本建築学会:スピーチプライバシーの評価規準と設計指針―音声による情報漏洩防止―,2021
図4 単語了解度を指標とした情報漏洩の程度の予測
本記事では、製品の特性に合わせた音響性能の評価事例として「執務ブースの遮音性能評価」の方法についてご紹介しました。このような測定方法を活用して、ブース構造の改善に関する技術支援や、共同研究も実施可能です。
なお、ここでご紹介した内容の他にも、パネルパーテーションやマスクの音響性能評価に関する評価実績がございます。各種製品の音響性能評価、製品開発支援についてご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問合せください。
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