気候変動対策として、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ゼロエミッション」の取り組みが国内外で加速するなか、環境に関する情報開示が企業に求められはじめています。そこで、温室効果ガスの排出量を算出する「ライフサイクルアセスメント」の考え方について、プロセス技術グループの田熊 保彦 主任研究員に話を聞きました。
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、気候変動を引き起こす要因とされています。排出を抑える対策はもちろん、近年は排出量などのデータや、環境へのリスクといった情報開示が企業に求められるケースも増えています。しかし、温室効果ガスの排出量を算出するのは簡単なことではありません。
「排出量の算定や報告には、GHGプロトコルという基準があります。算出の範囲にはスコープ1~3の3区分があり、スコープ3では自社工場の排出量だけでなく、購入した製品やその配送、従業員の通勤や出張、さらに消費者が製品を使用した時や、廃棄したときに生じた温室効果ガスまで考えないといけません」(田熊)
「これから大企業がスコープ3への対応を広げていけば、下請けの中小企業もデータ開示を求められる可能性があります。私たちは『ライフサイクルアセスメント』という手法を行ってきた経験がありますので、ご相談いただければアドバイスが可能です」(田熊)
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品のライフサイクル全体での環境負荷を定量的に評価する手法です。製造から消費、廃棄までの流れ(ライフサイクル)において、「入ってくる量」と「出ていく量」を調べることで、トータルで生じる環境負荷の量を計算する、という考え方が基本となっています。
「上の図の青い枠で囲われている部分が評価の対象としたとき、青い枠に入ってくる資源の量や、青い枠から出ていく排出物などの量を調べます。『電気を1 kWh使用したときの資源と排出物の量』など、活動ごとのデータは既にありますので、そこに当てはめて計算を行います」(田熊)
「入ってくる量」と「出ていく量」を計算したあとは、環境への影響度の評価を行います。「出ていくもの」である排出物の種類は、二酸化炭素をはじめ、フロンガスやメタンなどさまざまです。また、「入ってくるもの」である鉄鉱石や石炭なども、“埋蔵資源の枯渇”という意味で環境に影響が与えています。
「環境に与える影響度や領域は、それぞれの物質によって異なりますので、出入りした物質を単純に合算することはできません。そこで、その物質がどの領域に影響するかを分類し、影響度の大きさを考慮したうえで、最終的な指標を計算します。これをインパクト評価と呼びます」(田熊)
たとえば上の図では、地球温暖化について「メタン(CH4)は二酸化炭素(CO2)の25倍影響がある」として計算されています。1つの物質が複数の領域に影響することもあり、計算は複雑です。
「現在は気候変動が注目されていますが、本来は人間の健康や生態系への影響なども環境負荷にあたるはずです。環境負荷をトータルで考えるときに、LCAという手法は有効だと考えています」(田熊)
LCAを取り入れる際に注意すべき点として、田熊は「データをいかに扱うかが大事」だと話します。
なにを基準にCO2排出量を決めるべきか、正解はありません。その都度、納得いく説明ができるように、ロジックを組み立てたり、記録を残したりすることが重要になります。
それでは、温室効果ガスの排出量を減らすために、中小企業は普段からどのようなことを心がけていればよいのでしょうか。
「『無駄をなくす』ということでしょうか。無駄な工程を減らしたり、効率化を図ったりすれば、材料や排出物が減って環境負荷の低減につながりますし、なによりコスト削減にもなります。どこに無駄があるかを知るには、やはりデータが大切です。まずは『入ってくる量』と『出ていく量』のデータを意識するところから、はじめてみてはいかがでしょうか」(田熊)
Tweet(外部リンク)
研究開発本部 機能化学材料技術部
プロセス技術グループ
主任研究員
田熊 保彦(たくま やすひこ)
※記事中の情報は掲載当時のものとなります。