都産技研において、食品分野の支援を担っている施設が、秋葉原にある食品技術センターです。2022年度からはフードテックによる製品開発支援事業も始まり、時代とともに変わりゆく食品産業を多面的に支援しています。食品技術センターの現在の取り組みについて、小沼 ルミ センター長に話を聞きました。
食品技術センターは、都内食品産業の振興および都民の食の安全と食生活の充実を図ることを目的に、1990年に「東京都立食品技術センター」として設立されました。2021年4月には、さらなる支援強化を目的に都産技研と組織統合をしています。
「以前より、食品技術センターでは依頼試験や機器利用、セミナーの開催といった中小食品製造業者向けの支援を行ってきました。都産技研との組織統合後は、本部に持ち込まれた食品関係の技術相談を引き受けるなど、組織間での連携によってさらに支援の幅を拡げています」(小沼センター長)
支援事業のほか、食品技術センターでは独自の研究開発も行っています。原材料や加工食品の特性評価技術、微生物利用と安全性確保技術、原材料の機能性解明と加工技術の開発といった食品産業における技術的課題の解決や、東京の地域資源を活用したオリジナル食品の研究開発を手がけてきました。
食品技術センターでは、お客さまのご依頼に応じて各種測定・分析を実施する「依頼試験」や職員のサポートのもと、お客さま自身が試験機器を利用できる「機器利用」といった支援を実施しています。
「依頼試験や機器利用では、大量に試験をこなすというより、中小企業さまの『少し試してみたい』『試験結果についてアドバイスがほしい』といったニーズに応えていきたいと考えています。ほかの試験機関にはあまりない試験機器も備えておりますので、ぜひ活用いただければと思います」(小沼センター長)
例えば「レトルト殺菌機」は、関東の公設試験研究機関では食品技術センターにのみ設置されている設備です。レトルト食品とは、光や空気を通さない容器に入った食品を加圧により、100℃を超える高温でレトルト殺菌を行うことで常温での長期保存が可能な即席食品です。「レトルト殺菌機」を用いることで、加熱によって味や香りが変化しないか、有害物質などが発生しないかなどを試すことができます。
レトルト殺菌機(外観)
レトルト殺菌機(上から)
ほかにも、食品を微粉砕できる「食材粉砕器」や、食品を凍結して乾燥できる「凍結乾燥機」なども備えています。凍結乾燥機は凍結したまま食品の水分を飛ばせるため、「食品内のそのままの成分を濃縮して取り出したい」というお客さまがご利用いただくこともあるといいます。
凍結乾燥機
食材粉砕器
また、観察装置が豊富に用意されているのも食品技術センターの特長です。「なにを見るのか」「どういう目的で見たいのか」によって、適切な観察装置を使い分けることができます。
「簡易SEM(走査電子顕微鏡)」は、数十マイクロメートル程度の構造を水分量が少ない試料であればそのまま観察できる電子顕微鏡です。脂肪がどのように分布しており、タンパク質とどう絡み合っているかなど、微細なものを観察することが可能です。
簡易SEM(走査電子顕微鏡)
水産練り製品の顕微鏡観察画像
簡易SEM(走査電子顕微鏡)による反射電子像
(球状物質:脂質、矢印:でん粉粒)
また、簡易SEMより広範囲の観察に向いた「デジタルマイクロスコープ」や、蛍光染色によって蛍光顕微鏡よりコントラストが高く、より染色箇所が区別しやすく細胞レベルの分布を観察できる「共焦点レーザー蛍光顕微鏡」などをそろえています。
デジタルマイクロスコープ
水産練り製品の顕微鏡観察画像
デジタルマイクロスコープによる明視野画像
(青:タンパク質、濃紫:でん粉粒)
共焦点レーザー蛍光顕微鏡
水産練り製品の顕微鏡観察画像
共焦点レーザー顕微鏡による蛍光画像
(赤:脂質)
従来の支援メニューに加えた新たな取り組みとして、都産技研では2022年4月より「フードテックによる製品開発支援事業」を開始しました。
世界的な人口増加による食糧危機や、高齢化をはじめとした生活様式の変化などに伴い、食に関するニーズは多様化しています。こうしたニーズに応えるため、機器整備や研究開発を進め、食品技術センターを進化させていきます。
食品技術センターでは、本事業における支援強化の柱として、以下の4つのテーマを掲げています。
「代替肉の創出・普及支援」は、畜肉や魚肉に代わる「代替肉」の創出や普及に関する支援です。「介護食品、即席食品の高品質化支援」は、高齢者向けの介護食品や、共働き・単身世帯向けの即席食品の高品質化を支援するものです。
また、健康志向の高まりで機能性食品に注目が集まっていることから、機能性食品を開発する際のエビデンス取得について支援を行うための研究を進めています(機能性食品のエビデンス取得支援)。
「輸入小麦代替による食品の開発支援」は、世界規模の社会情勢不安や気候変動で価格が高騰する輸入小麦の代替による食品開発を支援するため、今年度からテーマに追加されました。こちらは「公募型共同研究」※として、企業との共同研究を進めていく予定です。
※公募型共同研究:都産技研が事業化の実現可能性が高い研究開発テーマを広く公募し、採択された中小企業者に研究開発を委託し、その研究開発の一部を都産技研が分担(都産技研が保有するシーズの活用や施設・設備の利用等)して、製品化・事業化を目指す共同研究です。
食品技術センターは、2023年10月4日から開催される「食品開発展2023」(東京ビッグサイト)に出展します。食品分野の研究・開発、品質保証、製造技術者向けの専門展示会であり、食品技術センターの事業内容について展示を行う予定です。
また、食品関連の無料セミナーを開催予定です。詳細が決まりましたら、以下Webサイトでご案内いたします。
都産技研 / フードテックによる製品開発支援事業(外部リンク)
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食品技術センター
センター長
小沼 ルミ(こぬま るみ)
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