株式会社林化工機製作所は、都産技研との共同開発により、特殊水溶液用ポンプのくみ上げ能力の約10%向上およびポンプ効率の改善を実現しました。半導体部品、基板などのメッキ、洗浄の効率化や、環境分野における排水処理システムなどへの活躍を期待できる竪型渦巻ポンプとして製造され、2022年11月下旬より受注を開始しました。
開発までの経緯や今後の展望について、株式会社林化工機製作所 代表取締役社長の本橋 武治 氏、設計開発部 課長の本橋 英治 氏、都産技研 技術支援本部 技術支援部の小西 毅、研究開発本部 情報システム技術部の市川 英伸に話を聞きました。
株式会社林化工機製作所は、ケミカルポンプの専門メーカーです。1965年よりポンプの開発、製造、販売を行っています。 都産技研との出会いは、2019年にポンプの振動対策で相談したことがきっかけでした。その後、オーダーメード開発支援を通して流体解析によるポンプの性能評価を実施し、さらにポンプ性能の向上を目指すため、共同研究がスタートしました。
特殊水溶液用ポンプとその構成部品
羽根部がむき出しになっているものをオープン形、上下が円盤で覆われているものをクローズド形、
片側のみ覆われているものをセミオープン形羽根車と呼びます。
半導体やプリント基板の製造に必要な洗浄液や粒子を含む液体の輸送には、セミオープン形羽根車を搭載した特殊水溶液用ポンプが不可欠です。しかし、セミオープン形羽根車を採用している堅型渦巻ポンプは、オープン形やクローズド形に比べて効率が落ちやすいという特徴があります。小西研究員はそこに目をつけました。
「昨今、国もエネルギーの削減を掲げる中、動力の強化でなく、羽根車で水をくみ上げる能力を高めるというアプローチで効率の向上につなげることは、中小企業支援を使命とする都産技研の研究テーマとしてふさわしいと思いました」(小西)
また林化工機製作所も、ポンプメーカーとして効率や性能の向上を課題として抱えていました。羽根車の形状や角度を変えた試作品をつくり、効率の検証を行っていましたが、望ましい成果は得られていませんでした。
「振動対策でお世話になった小西さんがポンプの研究もされているとのことで、共同研究のご提案をいただきました。ちょうど製品開発で壁にぶつかっていた時期ということもあり、迷わずスタートしました」(本橋 英治 氏)
ポンプには耐薬品性が求められるため、材料に塩化ビニールが使用されています。塩化ビニールで加工できる形のバリエーションを考案し、それぞれに対して実験検証を行いました。結果が良かったものに対して数値流体力学(CFD)でシミュレーションすることで内部の損失を明らかにした上で、さらに実証実験を繰り返しました。その結果、羽根出口角の最適値が25度であることを導き出しました。
「教科書に載っているような計算式で羽根出口角を変えたり、いろいろ試したことはありましたが、入り口から出口まで、全体を考えて角度を変えるといった手法や、自分たちの想定していなかった計算方法もご提案いただきました。自分たちが作ったものと形状が似ていても、小西さんの計算式で作ると性能も効率も上がったので、驚きました」(本橋 武治 氏)
CFDの活用により、試作品をつくっては検証するという従来の方法に比べて、材料の無駄もなくなり、製品開発が効率的に進められるようになりました。ただ、こうした最新技術の導入は非常にハードルが高いのも事実です。
「大手メーカーではCFDを活用して開発する企業もありますが、都内の中小企業において、最新技術を導入して新しいポンプの羽根車を開発したのは、おそらく今回が初めてです。ポンプの業界は老舗の企業が多く、新しい技術の導入が難しいケースがあるのですが、今回の共同研究では我々の試みを柔軟に受け入れていただき、製品開発を進めることができました。今後も、さらなる改良のため、引き続き都産技研の支援を活用していただければと思います」(小西)
解析結果の例
改良した⽻根出口角25°の⽻根⾞
羽根車の改良によって、筐体の寸法を変えずにポンプの性能を上げるということは、実は予想以上に大きなメリットがあります。
「モーターの動力を上げ強制的に水をくみ上げる能力を高めるのではなく、羽根車の構造の工夫によってポンプ効率を向上できれば、省エネ、省スペースで、なおかつ低価格での販売が可能になります」(小西)
「ポンプが小型化すると、配管など設備全体をワンランク小さくできるので、総合的にコストが下がります。実際、お客さまからいただいたご要望に対し、同等の性能で想定より小さいポンプを提案することができ、受注まで至ったという案件が出てきています」(本橋 武治 氏)
あわせて、ポンプにとって永遠の課題である振動と静音についても研究を進めています。
「振動に関しては、どんな周波数の振動がポンプや関連部材に損傷を与えるのか、まずは客先の設備に測定器を設置し、データを集めることから始まります。異音の発生状況をデータとして示すことができると、そのデータに基づいてポンプのメンテナンスや交換ができるようになります」(市川)
さらに、羽根車の開発に続いて、現在はケーシング(容器)の改良を目指した共同研究が始まっています。
「ケーシングに関しては、まだノウハウが確立しておらず、試作品を作るのに手間も費用もかかりますが、ケーシングの改良が進めば、羽根車を変えるよりもさらに、性能の変化が期待できます。今後も都産技研の技術や関連機関の助成事業などをご活用いただきながら、さらなる高効率化を目指していきたいと思います」(小西)
Tweet(外部リンク)
(左から)
研究開発本部 情報システム技術部 市川 英伸、
技術支援本部 地域技術支援部 小西 毅、
株式会社林化工機製作所 設計開発部 課長 本橋 英治 氏、代表取締役社長 本橋 武治 氏
※記事中の情報は掲載当時のものとなります。