古くから知られている材料もナノ(10-9)メートルサイズの小さな構造になると、“固まり”として存在している時とは異なる特性を示します。材料と構造の組み合わせによってさまざまな機能を生み出すことから、都産技研ではナノ機能材料の開発とこれらの特性の評価に取り組んでいます。本記事では、開発材料と評価技術の一部をご紹介します。
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固体材料では原子同士が密接した状態ですが、量子ドットと呼ばれるようなナノサイズの空間に原子を数個ずつ閉じ込めることでもともとの材料とは異なる特性を生じることが知られています。
都産技研では、乾燥剤にも用いられる身近なシリカで分子レベルの大きさである1 nmサイズの細孔の鋳型を実現しました。
例えば、希薄な溶液でしか発光しない蛍光材料を、この細孔に1分子ずつ入れることで固体での発光が可能になりました(図1)参考文献1。また、通常では弱い蛍光しか示さない分子を、この細孔に入れると、分子がさまざまな相互作用を受け、実用レベルの強い蛍光が発現します。
さまざまな材料をこの鋳型で包むことで、蛍光に限らず分子同士や原子同士が互いに密接している状態では得られない機能を、扱いやすい固体材料として発現させることができます。
図1 シリカ細孔構造と細孔の鋳型に入れた蛍光分子の強い蛍光
参考文献1: K. Hayashi, Y. Fujimaki, K. Mishiba, H. Watanabe and H. Imai: Chem. Commun., 97(2021), 13150-13153.
金属のナノ粒子に光をあてるとプラズモンと呼ばれる電子の集団振動が起こります。
振動の共鳴波長における鮮やかな発色は、切子などのガラスの着色に古くから利用されてきましたが、近年では半導体材料と組み合わせた構造による電子の移動制御や促進機能が注目されています。
太陽電池などにも用いられますが、都産技研では光触媒への応用に取り組んでいます。
単独では光触媒活性が小さい亜酸化銅を、強いプラズモン効果を持つ金のナノ粒子と組み合わせて酸化チタン上に担持することで、可視光でも水中の重金属の除去が可能な光触媒材料を開発しました。その除去効果を図2に示します参考文献2。
図2 光触媒材料のデザインと重金属の除去効果
参考文献2: S. Yanagida, T. Yajima , T. Takei and N. Kumada: Am J Environ Sci,115(2022), 173-189.
光の透過・反射特性は、材料の屈折率と吸収特性と光の入射角で決まります。
しかし、光の波長と同程度(数十 nmから数 μm)の周期構造では干渉や回折が生じ、これを利用すると構造によって透過・反射の波長や角度の特性が制御できます。
応用として透明な周期構造で発色する構造色が有名ですが、都産技研では季節の太陽高度(入射角)の違いに着目して夏に反射率が高く冬に吸収率が高くなる省エネ材料を開発しました(図3)参考文献3。
アルミを素材としていますが、構造を変えることで地域による太陽高度の差のような条件に応じたカスタマイズができることも特徴です。
図3 季節によって太陽光の反射・吸収特性を制御したアルミ周期構造
参考文献3: K. Isoda, K. Nagata, D. Ogawa, M. Ebisawa, N. Hagen, and Y. Otani: Opt. Express, 27,15(2019),36426-36437.
新しい物質はもちろんのこと身近な材料も“構造”によって未知の特性を示すことがあります。
都産技研では材料の可能性を探るための技術支援に取り組んでいます。
また、材料の構造解析、組成分析や表面構造の観察に加えて、蛍光材料や光電材料、光機能材料などさまざまな機能性材料の特性を評価する技術を保有しています(図4)。
いずれも依頼試験や機器利用の支援サービスに対応していますので、発光材料、導電性材料、光機能材料、触媒材料などの開発やこれらを用いたデバイスの評価にお役立て下さい。ご相談やお問い合わせをお待ちしております。
図4 材料の評価技術に関する技術支援例
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