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第1号(平成10年度)論文
概要
1.複合表面硬化処理鋼の焼付特性
石田直洋、藤木 栄(材料技術グループ)
本実験では、プラズマ窒化処理と高周波焼入れ処理を組み合わせた複合表面熱処理鋼の焼付特性について研究を行った。得られた結果は以下に示す。
- 1)窒素拡散層には炭素、窒素を含んだ微細なマルテンサイトと残留オーステナイトが生成され、高い表面硬さと深い硬化層が得られた。
- 2)A1変態点以上のプラズマ窒化処理と820℃で行う高周波焼入れ処理を組み合わせると最高の耐焼付性を示した。
模擬焼却灰を用いた結晶化ガラス作製条件の検討
田中 実(企画普及課)、上部隆男、小山秀美、陸井史子、大久保一宏、鈴木 蕃(材料技術グループ)
模擬焼却灰は工業原料及び試薬より調合した。バッチは,質量比でけい砂(SiO2)52から73,アルミナ(Al2O3)15から36,石灰石(CaCO3)40から60,ソーダ灰(Na2CO3)9から20,金属鉄粉末(Fe)1から5,無水ぼう硝(Na2SO4)4,グラファイト(C)1,亜鉛華(ZnO)4,リン酸カルシウム([Ca3(PO4)2]3・Ca(OH)2)0から6で混合し調整した。バッチを1450度で溶融後,鉄板上に流し出して黒色のガラスを作製した。核形成をするために,ガラスを850度1時間熱処理をし,結晶化ガラスとするために1100度2時間熱処理した。走査電子顕微鏡写真及び粉末X線回折の結果,主結晶はアノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)であり,他の結晶は,ウォラストナイト(CaO・SiO2),ネフェリン(Na2O・Al2O3・2SiO2)及びゲーレナイト(2CaO・Al2O3・SiO2)であった。
3.アルミナ皮膜を用いたEL素子の開発
前野智和(表面技術グループ)、森崎重喜(都立大学)
アルミニウム陽極酸化皮膜を利用した発光装置を開発するために、希土類元素をバリヤー型アルミニウム陽極酸化皮膜にイオン注入した。表面電解研磨せずに陽極酸した皮膜にEuイオンを注入した試験片では、100V程度からEL特性を示し始め、印加電圧の上昇とともに増加した。Euイオン、TmイオンおよびTbイオンを注入した試験片の発光は、各々赤、青および緑であった。EuイオンとTbイオンを注入した試験片の発光スペクトルには、各々の元素の輝線スペクトルが含まれており、この発色は肉眼では黄色に見える。
4.減圧レ-ザ溶射法による軟鋼上クロム皮膜の形成
一色 洋二(表面技術グループ)
軟鋼基板上に減圧レーザ溶射法によりクロム被膜を形成し、入射エネルギ-密度の関数として被膜組成、微細構造、微少硬度等を解析した。入射エネルギ-密度Eiが64Wmm-2のとき、被膜組成はCr30Fe70合金となる。合金層の厚さは入射エネルギ-密度の低下とともに減少し、Eiが13Wmm-2のとき、クロム単層被膜が成長する。CrFe合金被膜の形成は鉄鋼表面における耐食性向上の可能性を示唆している。
5.固体潤滑剤を添加した水を用いた絞り加工
中田高志、片岡征二(精密加工技術グループ)、加藤光吉(計測応用技術グループ)
固体潤滑剤を含む水主体の潤滑剤の,アルミ合金(A5052P-O,厚さ0.6mm)における絞り加工の潤滑剤への適用を試みた.また,A5052P-0材とSPCC材の絞り性の比較検討も行った.中でも水に固体潤滑剤のメラミンシヌアレート,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸カルシウムを添加した潤滑剤を用いた場合には,A5052P-O材における限界絞り比(L.D.R.)が,1.7から2.1にまで大きくなり,加工力も大幅に減少した.しかしながらSPCC材においては,A5052P-O材に比べて固体潤滑剤の効果は小さかった,
6.りん酸による銅の電解研摩
上野武司、加沢エリト、佐々木智憲、吉田裕道(電子技術グループ)、齋藤いほえ、田村和男(城南振興センター)
銅の電解研摩において、添加物を含むりん酸が使われる。ゼラチン、スルホン酸、しゅう酸、クロム酸等の添加物の代わりに、銅イオンを添加した。ここでは、りん酸中の銅イオン添加の方法、また銅の電解研摩に対する銅イオンの効果について述べる。銅の電解液は、りん酸にりん酸銅と五酸化二りんを加えることで得られた。研摩時において、銅イオンの添加により、初期の電流密度は増加した。また銅イオンを含む電解液による研摩面は平滑である。銅イオンは、銅表面の酸化を抑制した。
7.放射電波が医療機器に及ぼす影響
寺井幸雄、大森 学(電子技術グループ)、森澤一義(現 交通局)
病院に設置されている医療機器及びISM装置の周囲の電磁的放射分布を測定し,それらの分布特性を検討した。電波暗室内で,ログペリアンテナを使用し,医療機器の放射電波によるイミュニティ特性を測定した。印加電界強度は,3から20V/mで,周波数範囲は80Mから1GHzであり,IEC 1000-4-3 の規定によった。この結果,医療機器のうちの1台は,レベル2で誤動作を示した。この1台のイミュニティは,フェライトリングを利用することにより,レベル2からレベル3に改善できた。
8.膨張型消音器の簡易音響設計方法
佐見津雅隆、加藤光吉、今井 孝(計測応用技術グループ)
機械騒音の防止に使用されている膨張型消音器の簡単な音響設計方法を考案した。この方法では、膨張型消音器を構成している空洞部分を多数の直管が接続されている状態に置きかえて、直管のサイズ、音の周波数および媒質の特性インピーダンスを用いて音響四端子定数に変換したのちマトリックス計算を行った。この方法を使用してテーパ管付き膨張型消音器の透過損失を計算した結果、理論計算式を用いて計算したときと良い一致が得られた。この方法は、空洞の断面積が変化しているタイプの膨張型消音器の音響設計に利用すると便利である。
9.光源および照明器具からの紫外線放射の測定
笹森宣文、實川徹則、林 国洋、山本哲雄(計測応用技術グループ)
紫外から可視域までの分光放射特性を測定するためのシステムを開発した。このシステムは、フーリエ変換型分光光度計とハロゲン電球で構成される。ハロゲン電球には定格電圧以上の電圧を供給して紫外から可視域までの標準光源とした。その結果、各種蛍光ランプの紫外から可視域までの分光放射照度が評価できるようになった。
10.温度計測における不確かさの評価
尾出 順、斎藤和夫(計測応用技術グループ)
不確かさは、水の三重点セル、標準白金抵抗温度計、数種類のシールドセル、計測システム、環境条件等の誤差解析を基礎として行われる。正確な温度計測は精密な抵抗計測技術と安定した温度槽の確保に依存している。また、国家標準からの不確かさの小さなデータの供給が必要となる。不確かさはタイプAとタイプBの二つの状態に分類され、これらは計測結果の中でいくつかの成分として構成される。この報告では白金抵抗温度計での不確かさの要因についてタイプAとタイプB、総合不確かさと拡張不確かさについて評価した。その結果、0℃から200℃の温度範囲において拡張不確かさは25mKである。
11.減衰法による損失係数測定におけるフィルタの影響の解析
高田省一、大島 敏(計測応用技術グループ)
減衰法による損失係数測定へのフィルタの適用を適切に行えるように、その収束性も損失係数で評価することを提案している。特にバタワース型のバンドパスディジタルフィルタを検討している。例えば、6極のオクターブバンドパスフィルタの損失係数は約0.3、1/3オクターブフィルタは0.1であり、これらの値がフィルタを通過する単振動系のインパルス応答の損失係数の最大の評価値を制限する。さらに、特徴的な現象として、等しい強さのモードが高密度で分布していると、濾波された信号の減衰度はフィルタそのものの減衰度にほぼ一致してしまい、卓越するモードがあればそのモードが全体の減衰度を支配することを示している。
12. 252Cfによる漏水検知
鈴木隆司(企画普及課)、岡野安宏(安全管理課)
3.7MBqのCf-252線源の散乱中性子線とHe-3検出器を用い,モデル場での漏水検知の可能性について検討した。実験結果とMCNP-4Aモンテカルロコードによる計算結果を比較したところ非常によく一致した。測定システムの最適幾何学的条件を,種々の条件でシミュレーション計算し,中性子の計数と減衰係数で得られるFOMにより求めた。最適なシステムは,線源検出器間距離が0cmで,線源,検出器とも10cmのグラファイトの反射材を用いる場合であった。関東ローム中に含水率40%の漏水があった場合の検知限界は,地表から漏水の上面までの距離がおよそ15cmであった。
13.イメージングプレートを用いた新しい放射線写真撮影技術の開発
高田 茂、小山元子(精密分析技術グループ)、櫻井 昇(放射線応用技術グループ)、渡辺是彦(安全管理課)、谷崎良之(精密分析技術グループ)
イメージングプレートを用いた新しい放射線画像撮影技術を開発した。イメージングプレートは写真フィルムの代わりに輝尽発光体を使っており,フィルムより感度が高い,ラチテュードが広い,比例性が良いなど優れた特徴を持っている。この特徴を利用して,3.7MBq以下の密封線源によるガンマ透過画像,天然放射性物質によるオートラジオグラフ,252Cf線源を用いた中性子線透過画像の撮影を行った。
14.照射食品の検知のための熱ルミネッセンス法におけるTLピークの分離
田辺寛子(精密分析技術グループ)
照射食品の検知において,TL法は香辛料などに有効な方法であり,ヨーロッパ基準も出されている.この方法の標準化法では,200から250℃の範囲のTL曲線は安定であるので,150から250℃のTLピークを照射の有無の判定に使用している.しかし黒コショウを使用して,各TLピークの経時変化を調べたところ,360℃のピークの方がより安定であった.この360℃のTLピークのTL強度を完全に分離するためには,360℃より低い温度のピークの温度またはその付近の温度まで昇温し,その後同温度で10秒間保持し,冷却後,再度50℃から450℃まで昇温し,TL測定をすればよいことがわかった.ここに報告した方法によって分離した安定性のよい360℃のピークのTL強度を用いて標準化法を行うと,照射の検知の精度が上がると思われる。
15.光電測光式発光分光分析法による銅合金の定量分析
佐々木幸夫、上野博志、藤沢正尚(技術評価室)
光電測光式発光分光分析法による銅合金の分析法の研究をした。各銅合金は、黄銅、アルミニウム青銅、リン青銅、ベリリウム銅及び青銅を用いた。銅合金中の主要元素及び微量元素の分析精度を得るために発光及び測光条件、共存元素によるスペクトル線の干渉を検討し、得られた分析結果の定量性を統計処理によって評価した。その結果、
- 主要元素は、黄銅中の亜鉛、アルミニウム青銅中のアルミニウム及びベリリウム銅中のベリリウムの含量1%以上で1%以内の精度で分析ができる。リン青銅中のリンは、含量1%以内で2%以内の精度で分析ができる。
- 微量元素は、黄銅の9元素、アルミニウム青銅等(リン青銅、ベリリウム銅、青銅)の13元素について含量1%以下の分析が可能となった。
以上の結果から、光電測光式発光分光分析法が銅合金成分分析に有効であることを確認した。
16.耐圧ホースの低温領域における耐久性
並木喜正、鈴木岳美、清水秀紀、田邉友久(製品科学技術グループ)
耐圧ホース・金具等液圧用機器類は、高圧でしかも高温ないし低温雰囲気中の過酷な環境で用いられている。最近では、冷凍機のほか寒冷地で使用される場合が多くなり、低温領域における耐圧ホースの安全性・耐久性が業界での課題となっている。そこで、耐圧ホースの特性と耐久性を実験的に解明する。低温衝撃圧力実験や低温での揺動と衝撃圧力による複合実験で欠陥が確認されることが明らかとなり、そして、その試験方法は、ホースの安全性や耐久性を調べるために有効であることが判った。
17.汎用有限要素法プログラムを用いた付加円孔による応力緩和計算システム
松田 哲、大久保富彦(製品科学技術グループ)
応力集中問題は、機械部品や構造物等の設計における重要な検討項目の一つである。従来から、専門家が実験やシミュレーションによってその問題を検証してきたが、近年では汎用FEMプログラムが一般の機械技術者に利用されるようになり、応力分布等の特性を比較的簡単に把握できるようになった。本研究では、設計や実験の省力化に寄与することを目的とし、汎用FEMプログラムを自作プログラムに組み合わせたより柔軟な計算システムを構築するとともに、有孔板の応力集中を付加円孔により緩和する際の径と位置の及ぼす影響を事例によって明らかにした。
18.ロボットによるガラス種巻き作業における竿傾け角度とボール上昇速度の影響
久慈俊夫(製品科学技術グループ)、松丸清司(三和特殊硝子株式会社)
本研究報告は、ガラスブロー成形工程において、種巻きを自動化するために行った実験について述べている。熟練作業である種巻きは、7項目に分類することができる。また、自動化のために解明が必要な条件として、10項目を作業者の動作解析から抽出した。実験条件は、球形と卵形ボールの各1種類であり、ボール上昇速度は7条件、ボール沈め深さは5条件、竿角度は6条件である。実験は、試作した種巻き実験装置を使用し実施した。種巻き実験の結果、ブロー成形種巻き作業の自動化を実現するためには、ボール上昇速度は60から80mm/s、竿角度は22から28度にセットし、ボール沈め深さは変動の無いように制御することが必要であることを明らかにした。
19.足関節シミュレーションモデルの構築
大久保富彦(製品科学技術グループ)、須賀武彦(日本シグマックス株式会社)
足関節ガードを付けた足関節シミュレーションモデルの構築方法を記述する。生体に対するガードの影響をシミュレートするため、次のプロセスでモデルを作成した。
- (1)CT撮影装置で生体足関節を断層撮影する
- (2)断層撮影像を利用してワイヤ-フレームモデルからソリッドモデルまでを作成する
- (3)ソリッドモデルを有限要素モデルに変換する
- (4)予備解析として関節回転運動と負荷特性に対する有限要素モデルの妥当性の検証
これらのことから、ガード形状の最適化にとって、この有限要素モデルは生体足関節のシミュレーションモデルとして利用可能と判断した。
20.ゆるみ検出機能付ボルトの開発
舟山義弘(製品科学技術グループ)、池田 弘(技術評価室)、西島朝司(株式会社共和計測)
この研究の目的は、ゆるみを検出できる新型ボルトを開発することである。ボルトの中心部にはひずみゲージ式の変換器が取り付けられており、その変換器によって締結体の軸力が検出される。そして、出力信号はボルト頭部にあるLED によって表示される。出力信号のばらつきは極めて小さく、またボルトに組み込まれた電池によって1年以上作動することが実証された。
21.電気機器の突入電流測定と評価
山口 勇、榎本九二雄(電気応用技術グループ)
近年、パワーエレクトロニクス技術が急速に発展し、半導体電力変換装置等も広範囲に使用されるようになってきた。これに伴い、電源開閉時の突入電流による新しい問題が出現しつつある。これは装置内の回路定数に起因した、過大な突入電流のことである。この論文は、突入電流測定装置による、電気機器の突入電流の測定と評価についての報告である。
22.熱画像を用いた高温物体までの距離計測
桝本博司、大畑敏美、土屋敏夫、金岡 威(情報システム技術グループ)
高温物質までの非接触測定距離が可能な計測器を開発しました。これは、2台のCCDカメラ、カラー画像処理ボード、およびパーソナルコンピュータから構成されています。計測ソフトウエアとして、補正用の新しいロジックを組み込み、線形性は2%となりました。
23.高速・高信頼通信モジュールの開発
森 久直、坂巻佳壽美(情報システム技術グループ)、小室貞樹(株式会社光研)
室内のOA機器、ビル全体の防犯管理機器、野外での自動計測機器など、デジタル情報を出力する機器が広範かつ多く、設置されるようになっている。そこでは、伝送ケーブル本数やその敷設空間の対策として、ループ接続をするのが一般的である。そこで、ループ接続を前提として、高速・高信頼化した通信モジュールを試作・開発した。そして、ホスト側からのソフトウェア制御と併せ、シリアル伝送システムの高速化・高信頼化を実現できた。その結果として、回線が切れてもシリアルデータの再構成が出来た。また、システムを構成する通信モジュールは、VHDLを用いて設計した。
24.光触媒を用いためっき廃液中の有機物処理
東 邦彦、小坂幸夫、大塚健治(資源環境技術グループ)、上部隆男(材料技術グループ)、吉田裕道、加沢エリト(電子技術グループ)
鉄ー炭素合金めっき廃液とニッケルー鉄合金めっき廃液中の有機体炭素(TOC)を、光触媒を用いて紫外線を照射しながら酸化処理させる方法について検討した。光触媒による酸化反応への妨害を取り除くため、めっき廃液中の鉄を約pH8で水酸化物として除去した。これに酸素あるいは空気を吹き込みながら、pH3以下に保ち、光触媒としてパラジウムを担持した二酸化チタンを用いて高圧水銀灯の紫外線を照射することによって有機物を処理することができた。の方法で、サッカリンやニトリロ三酢酸を含む廃液のTOC 1200mgC/Lを、225分間で15mgC/L以下にできた。セラミック製の限外ろ過膜(ポアサイズ 0.2μm)を用いると、酸化処理終了後の処理水中の二酸化チタン粉末を約40倍までに濃縮でき、光触媒の回収再利用が可能となった。
25.光触媒の固定化と有機性廃液の処理
東 邦彦、小坂幸夫、大塚健治(資源環境技術グループ)、上部隆男(材料技術グループ)、吉田裕道、加沢エリト(電子技術グループ)
光触媒である二酸化チタンのゾルーゲル法による固定化、また、それを用いためっき廃液中の有機物処理効果について研究した。光触媒としての二酸化チタン膜は、ゾルーゲル法によって石英ガラス管の表面に作成した。ゾルはチタン-n-ブトキシドとn-ブチルアルコールをモル比1:7で調整したものを用いた。石英ガラス管はゾルから1.6cm/minで引き上げ、120℃で15分間乾燥した後、焼成を580℃で10分間行った。二酸化チタン膜5層にパラジウムを担持したものは、酸素を吹き込みながらpH3で紫外線を照射することで、ジメチルアミノボランのようなめっき廃液中の有機物を360分で91%処理することができた。同様の方法で、ニッケルイオンで着色したTOC260mgC/Lの模擬廃液を240分で完全に処理することができた。
26.各種線源によるポリエチレンの照射効果
伊藤 寿(放射線応用技術グループ)、今井正彦(元アイソトーフ゜総合研究所)
ポリエチレンフィルムの照射効果について、γ線、低エネルギー電子線、中エネルギー電子線、イオンビーム(プロトン)による影響について検討を行った。その結果、放射線の種類よりも、照射雰囲気の影響の方がむしろ大きいことがわかった。更に、ポリエチレンの種類(低密度、リニア低密度及び高密度)に対する照射効果を検討した結果、その構造の違いによっても照射効果に差異があることが明らかとなった。
27.γ線照射によるエンドトキシンの不活化
細渕和成(放射線応用技術グループ)、棚元憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
発熱性物質であるエンドトキシンがγ線で不活化できるかをリムルス試験によって調べた。この結果、水溶液中のエンドトキシンはγ線によって不活化され、その不活化効果はエンドトキシンの濃度に影響されず、D値は9.1から10.8kGyの範囲であった。また、薬剤共存下におけるエンドトキシンのγ線による不活化は、次亜塩素酸ナトリウムの場合で効率よく起こっていることがわかった。しかし、過酸化水素、エタノール、塩化ナトリウム、強酸性電解水の共存下の場合では、γ線によるエンドトキシンの不活化は抑えられる傾向が認められた。
28.誘導期線量を有する微生物の放射線抵抗性
関口正之(放射線応用技術グループ)
注射針から分離した胞子形成細菌(78菌株)をTSB及び水に懸濁後、乾燥しそれぞれの試料の放射線抵抗性を調べた。TSB懸濁液乾燥試料のD値は、水懸濁液乾燥試料より約2倍増加した。注射針分離菌(257菌株)の元の抵抗性分布を2倍し、補正した抵抗性分布を作成した。低バイオバーデン医療用具に関して、この分布はISOの標準抵抗性分布と比較して約10%高い滅菌線量を要求した。初めのショルダー(誘導期線量)を持つ菌株(11種の胞子形成細菌)の放射線抵抗性もTSB懸濁液乾燥試料で増加した。しかし、ショルダーの形はそれぞれ異なっており、あるものは顕著なショルダーを見せるが、他のものはそうでなかった。これらの菌株の内5菌株については、γ線と電子線に対する抵抗性も調べた。
29.組織培養を用いた百合の大量増殖
重松康司(放射線応用技術グループ)、浜田 豊(前東京都農業試験場)
サク百合の花器から小球の大量増殖を試みた。NAA 0.1mg/l,カイネチン1.0mg/l,BA 1.0mg/lを添加したMS培地で培養した。NAA 0.1mg/l、カイネチン1.0mg/l,BA 1.0mg/lの添加は花器から大量の芽及び小球の形成を促した。根の分化はNAA 0.005mg/l,カイネチン0.01mg/lを添加した培地でおこり、根の増殖はNAA 0.005mg/l,カイネチン0.01mg/lを添加した培地が良かった。芽及び小球の培養最適温度は20℃であった。組織培養法を用いた増殖は成長点、葉身、花糸、えき芽等から容易であることを示した。組織培養による特異な変異体はまれであった。